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良く見る「剛性の高いフレームは足に来る」の理由がいい加減? [日常]

私のような初心者がロードバイクのフレームを選ぶ際、雑誌やネットの情報を参考にするのだが、そこに書かれている内容が謎すぎて、この業界の闇を感じてしまう。もちろん、悪い意味でだ。どうやら、高剛性のフレームは漕ぐ力がロス無く伝わるのに、なぜか剛性の低いフレームよりも疲れて足が売り切れてしまいやすいという体験をしたライダーが、感覚的な説明を披露しているようだ。訳知り風に滅茶苦茶な論理を展開しているので、読む方は煙に巻かれてしまう。しかも、だいたい結論が無い。

1.作用反作用理論
硬いものを踏めば、柔らかいものを踏むよりも反作用が大きく、足の負担になるという説である。本当に硬いものを踏むならば、そうなのかもしれない。しかし、ペダルを踏んだ力は、クランク・チェーンリング・チェーン・スプロケット・ハブ・スポーク・ホイール・タイヤと伝わっていくのであって、フレーム剛性(BB周りの剛性)が、反作用に大きく影響するとは思えない。踏んでいるのはペダルであって、フレームでは無い。この伝達系の効率は非常に高いので、ペダルを通して足が感じるのは、おそらくこれらのパーツの中で最も剛性が低そうなタイヤの剛性であると考えられる。つまり、作用・反作用理論で攻めるなら、相手はフレームでは無く、タイヤとなるはずだ。この辺の感触は、タイヤのコンパウンド、サイズ、空気圧等で変化すると思われるが、これを議論している説を見たことが無い。そもそもBBの役割は支点であり、その剛性が大きく足の負担になるとは考えにくい。

2.応答時間理論
神がかった理論なので、読んでも理解不能であったが、反作用の応答時間が剛性の高低によって変化するのが原因とかいう説である。(違っているかも)この奇説が、フレームの固有振動数と振動吸収性について議論しているのであれば、気持ちは分かる。

だいたい、これらの諸説を説く人々は、フレーム素材の力学特性も真面目に考えていない事が多い。例えばクロモリは基本的にバネと同じで、弾性変形をする素材である。変形すると力が逃げてロスするという記述は、この素材には当てはまらない。かかった力の分だけバネ定数に従い変形するが、弾性域であればバネとして働き復元するので、ロスは大きくない。問題は、復元力をうまく推進力に活かせるかどうかで、これがうまく行かないと、結果としてロスになる。この辺には、フレームとしての応答(固有振動数)の要素が関わってくるので、応答時間の問題が生じると思われる。しかし、アルミやカーボンには厳密には弾性域が存在しない。アルミ合金は、弾性域に類似の応答域が存在するが、カーボンのsp2結合は、現存の素材の中で最も強い結合であり、基本的に伸びによる変形はしない。(引っ張れば、伸びずに切れる)したがって、カーボンフレームの変形は、炭素結合の伸びによるものではなく、主として樹脂の部分の変形に起因するものか、炭素の結合の変形であるとすれば、伸びではなく「曲がり」によるものである。曲がりに対しては柔軟性があるので、変形は可能であるが、その変形に対する力定数は高く無いので、剛性は低くなる。これら、アルミやカーボン素材では、弾性域が無いので、変形から復元する際にロス無く戻るという特性は期待できない。逆に言うと、変形は熱に変換されてロスに繋がりやすい素材である。この特性は、ロス無く力を伝達するにはマイナスだが、振動吸収という意味では有効である。実際に、フレームの振動吸収特性を測定すると、アルミやカーボンフレームの方がクロモリよりも振動吸収性が高い事がわかる。つまり、力学的には振動吸収性は、変形(復元)の際のロス(ダンピング)の大きさに関係しており、バネ定数で決まる負荷に対する変形量の大小とは直接関係しない。弾性域のあるクロモリでは、変形が大きくてもロスの少ないフレームが可能だが、アルミやカーボンでは、フレームの変形はロスにつながるので、変形しないフレームを作る必要が出てくる。これが、フレーム構造の大きな違いを生んでいると思われる。まあ、比重の違いも大きいが。
で、高剛性のフレームは足が売り切れる問題だが、これは高剛性フレームの問題なので、基本的にアルミやカーボンフレームの問題であるはずである。変形がロスにつながるこれらのフレームでは、速く走るためのレーシング機材のフレームは必然的に高剛性を目指す。では、なぜ高剛性では足が売り切れるのか。高剛性のフレームは変形量が少なく、ロスが少ない。つまりダンピングの効果があまりなく、振動吸収性が低い構造体になるという事であり、これはすなわち乗り心地が悪いフレームという事になる。フレームが振動を吸収してくれないため、サドルやハンドル、ペダルに地面からの振動がより大きく伝わってくる。で、体に大きな振動が伝わると、無意識に体中の筋肉を緊張させて、その振動を筋力で吸収しようとする。実際、ロングライドで体が疲れ果てると、この筋力による振動吸収がうまくできなくなり、保護すべき首や頭に振動が伝わって、痛い思いをすることがある。つまり、元気なうちは無意識にこの筋力による振動吸収を行っていることがわかる。高剛性のフレームでは、変形ロスが少ないゆえに、路面の荒れに起因するフレームの振動を全身の筋肉の緊張を使って吸収するため、剛性が低く、振動吸収性の高いフレームよりも疲れやすく、その結果、早く足が売り切れてしまうのではないかと考察できる。
基本的にはそういう考察になるわけだが、実際にはもう少し複雑だろう。フレームの振動吸収性が問題になるのは、ペダル、サドル、ハンドルのライダーとのインターフェースを担う部分であり、これらのパーツに振動が伝わらなければ、乗り心地は確保できる。一方、ペダルを踏みこんだ力をロス無くタイヤに伝えるために必要な剛性は、BB周りやチェーンステーなどの部分が重要となる。BB周りの剛性を上げるには、前三角の剛性を上げる必要があるが、すべてのチューブの剛性を上げなくても、剛性の確保は可能であることから、ライダーとのインターフェース周りの剛性を抑えて、駆動系周りの剛性を高くするという事はある程度可能であるはずである。それが、最近のはやりの極太ダウンチューブに、ガッチリチェーンステーに対して、細いシートステーというフレーム設計なのだと考えられる。十分な力学的解析と、潤沢な予算があれば、加速の良い高剛性フレームでも、乗り心地を確保することが可能になり、結果、足の売り切れない高剛性フレームは可能なのだと思われる。そのようなフレームでも、足が売り切れると感じるとすれば、この考察では考慮できていない別の要素が大きく影響している事になるが、実際には、あまりにも早く走れるのでついつい漕ぎすぎて疲れてしまうという、単純な心理的要素が大きいのではないかという気もする。
そもそも、ロードバイクのフレームに振動吸収性を求めるのも贅沢な話である。自動車の場合は車体が重く、その重い車体が動かないように、ホイールが動いて振動を吸収するサスペンションが装着される。しかし、ロードバイクでは、一番重いのは人の体である。ホイールは軽くて1㎏程度だが、これを独立に動かす機構はホイールよりも重くなるので使うのはバカバカしい。で、システムを見渡すと、ホイールにつながるフレーム重量も1kg程度であり、全部合わせても7㎏程度と、人体の1/10程度の重量なので、車体全体を路面に追従させて、体と車体の間で振動を吸収するのが効率が良いのでは?という事になる。これは要するに、筋力で振動を吸収するという事で、重量増加が全く無い素晴らしいシステムである。つまり、ガチガチに硬いフレームを体で抑え込んで走るのが本来の姿という気がする。しかし、最近の高度なフレーム作製技術により、無いものねだりが可能になりつつあるため、贅沢なフレームができつつあるということだろう。私もこのカーボンフレームの乗り心地に魅せられた一人である。多少ロスが大きくても、乗り心地重視で選びたい。その方が実際にはロングライドが楽になると思っている。しかし、高価なカーボンフレームよりも、タイヤの空気圧を下げた方が、ずっと効果があるらしいが。まあ、趣味で買うものには、いろいろと理由をつける儀式が必要だ。幸いプロのライダーでは無いので、結果は求められず(つまり気分が良ければそれでOK)、気楽なものだ。

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たかにぃ

以下は、ランニングからロードバイクへ転入した個人の考えです。ランニングでの薄底シューズと剛性の高いバイクの感覚がかなり近いところからの発想です。

BB周りのフレーム剛性が低いとペダルを下まで踏み込んだときに高いフレームより撓みが大きいのを実感できます。加えた力は無駄になりますが、足裏の力の掛かる位置がズレるので脹脛や太腿、臀部の筋肉も内腿側から外側まで幅広い範囲で使います。
それが硬いフレームだと撓みが小さく意識しないと使う範囲が狭くなり、特定部位だけ疲れ、フォームが悪いと直ぐに痛みが発生します。それを文学的に表すと「足にくる」っていうのではないでしょうか?
by たかにぃ (2018-08-29 21:09) 

Hiro

高剛性のフレームのバイクに乗ってらっしゃるのですね。うらやましい。私のは乗り心地抜群の安物です。
ペダルを下死点の位置で踏み込めば、確かに硬いフレームを踏んだのと近い条件になりますので、作用・反作用理論に近い状態になるかも知れませんね。ただ、普通のバイク乗りは、下死点では踏み込みません。むしろ引き上げるタイミングかと。
確かに、BBまわりの剛性は下げられないので、サドルやハンドルは何とかなっても、高剛性フレームではどうしても足に来る振動は低減できないでしょうね。だから、どうしても足が疲れやすいのでしょうね。
路面からの振動の周波数と、ケイデンスはおそらくちょっと違うと思うので、厚底ランニングシューズと同様に、(周波数特性に気を付けて)シューズの靴底にゲルなど仕込んで細工すれば、若干振動を低減できそうにも思いますがね。
by Hiro (2018-08-30 12:07) 

ブライト

素晴らしい考察で感銘を受けました。
他の方の作用反作用理論、応答時間理論を先に目を通したのですがいずれも直感的に理解し難く、都合よく部分的に物理法則や物性論を利用しているような印象を受けました。
Hiro様の全身の筋肉による振動吸収のためのエネルギーロスというアイデアは真実かどうかはわかりませんがこの問題の本質に大きく関与しているように思われます。

私は専門家ではありませんのでこの業界の振動吸収と駆動に関する剛性のトレードオフの関係がよくわかりません。例えばフレームまたはフォークのサスペンションあるいはサスペンション機能を持つサドルやシートポストは振動吸収には有効とされますが反面、ペダリングにおける剛性が下がるので(ポジションのブレも含めて)加速には不利との意見をよく見ます。他にもシューズのソールも厚ければ踏み込みのロスになるという話も常識のようです。それほどまで剛性を求めていながら硬すぎるフレームは逆に忌避され、逆にハイエンドカーボンはしなりを駆動力に変えられるとまで謳っていているという...。まあ剛性も加減の問題なんでしょうが、それこそ体格による個人差でどうにでもなるような...。
まあ結局のところ私も足への負担はフレームだけで考えるのではなくてドライブトレイン、シートポスト、サドル、シューズも含めた系で考えるべきだと思うし、踏み込みが膝に来るならシューズやソールを変えるだけても解決するような気がするのは素人考えなんでしょうかね。
by ブライト (2019-10-12 19:34) 

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