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コーヒー焙煎の水抜き工程って本当に水抜き? [日常]

ネットでコーヒー焙煎を検索すると、決まって最初に水抜き工程、その後1ハゼ、2ハゼの話が出てくる。特に、前半の水抜き工程が大事だとなっているが、最近、これは大きな誤解なのでは無いかと思っている。
日本に輸入されるコーヒー生豆は、12-14%程度の水分量になっているのだそうで、焼き上がったコーヒー豆は2-3%程度の水分量になるとのことだ。従って、焙煎により水分は大きく減少するので、どこかで水が抜ける事は事実である。しかし、この水分の減少の大半は初期の加熱工程で生じるのではなく、1ハゼ前後で生じるという結果があるようで、実際自分で焼いていてもそう感じる。つまり、本来の「水抜き」のメインの工程は、1ハゼが該当するはずである。そもそも1ハゼは、豆の内部に残留している水が高圧の水蒸気となって、豆の構造がその高圧に耐えきれなくなり爆ぜて圧力を解放する現象であると考えられる。発生する炭酸ガスによると書いている人もいるが、堅い豆がはぜるほどの圧力は、水蒸気と考えるのが妥当だろう。そして、当然ここで大量の水が放出される。これを裏付けるように、前半の加熱工程を本当にじっくり行って、豆の水分を抜いてしまうと、1ハゼがほとんど起こらなくなる。このような工程で焼いた豆は、全然おいしく無いのも重要な結果だ。つまり、真剣に水抜きすると、おいしいコーヒーにはならない。なぜなら、コーヒーらしい味の形成は、150℃付近で活性化するメイラード反応が重要であり、メイラード反応には水が必要だからだ。
メイラード反応は料理には極めて重要な反応であり、料理研究家により良く調べられている。それによれば、メイラード反応には10%程度の水分が必要であるとの事で、これはすなわちコーヒー生豆の含有する水分量に近い。つまり、水を抜かずに150℃程度まで加熱すると、効率よくメイラード反応が起こり、コーヒーらしい風味が形成される事になる。しかし、初期加熱で水分を抜いてしまうと、メイラード反応が十分に起こらなくなり、コーヒーらしい風味が薄れてしまう事になる。実際の焙煎結果はこれに合致する。
こう考えると、初期の加熱工程は「水抜き工程」では無く、「水抜け工程」とでも呼ぶべき工程である。加熱しなければ焙煎できない。加熱に伴い、豆の水分は当然抜けてしまうが、なるべく速やかに加熱し、水が抜けきる前にメイラード反応の起こる温度まで豆の温度を上げるのが重要という事になる。実際、ちまたにあふれるスペシャリティーコーヒーの焙煎レシピでは、1ハゼまでの時間を短くするものが主流であり、これはなるべく水を抜かずに、十分なメイラード反応を誘起するのが目的であると考えられる。
さて、1ハゼで水が抜けてしまうため、1ハゼ後はメイラード反応は進行しにくくなる。つまりミディアムローストでコーヒーの主成分の構成は終了すると考えられる。その後の加熱は、メイラード反応以外のカラメル化や炭化がメインとなった風味の構成となって行くはずである。もちろん、1ハゼ終了まで焙煎しないシナモンローストなどでは、豆の内部に水分が残る事になり、雑味の原因になり得るので、1ハゼの前の水抜きは重要となると考えられる。
一方、豆に水分が残留すると雑味の原因になるのも事実であり、最終的に水分は十分に抜かなければならない。これは、1ハゼ中にダンパー開度を上げるなど、排気を十分に行い、発生した水蒸気を追い出すことが重要である。手鍋焙煎では、1ハゼ中に何度も蓋を開けるが、これは温度調節だけでなく、発生した水蒸気を追い出す効果も大きい。まさに、真の水抜き工程は、この1ハゼ前後での水抜きであると考えられる。
もちろん、加熱速度が速すぎれば、豆の温度が均一に上がらずに、表面だけが焼けるという悲惨な状態にもなり得るので、それなりに時間をかけて温度を上げる必要がある。1ハゼまで8分~10分程度の時間をかけるのが標準的な加熱工程とされていると思われる。
もちろん、メイラード反応が最大限に活性化すると、反応生成物の濃度が上がりすぎ、いわゆる重たいコーヒーになると考えられる。これは同時に、豆の持つテロワールを生かしきれない焙煎になってしまうため、このメイラード反応を適度に制限する事も重要であると考えられる。これこそが、初期の加熱で水分調整を行う真の意味で、じっくり加熱してメイラード反応を控えめにして、未反応の成分を残し、その豆固有の風味を生かす手法とも言える。つまり、初期の加熱工程は、水抜き工程ではなく、メイラード反応調整工程であり、1ハゼでピークを迎えると思われるメイラード反応を、水分調整を行ってコントロールする工程なのだと思われる。
ネットで調べると、焙煎前に豆を洗っている方が結構いる。実際に私も試して見たが、一度洗うと豆の重量は10%程度重くなった。しかもこれは1日程度の乾燥では元に戻らない。つまり水洗いすると、10%程度の余分な水分が豆に添加されるとも言える。これは、初期の水分量に比べて明らかに無視できない量であり、豆の温度上昇だけでなく、メイラード反応にも大きく影響を与えることになる。とある家電メーカーでは、焙煎装置に適した水分濃度の生豆を販売している様である。この豆は、メーカーが水分調整を行っているのでは無いかと想像している。焙煎前に、生豆の水分濃度を調整するというのは、いわゆる水抜き工程を工夫するのと同じように、コーヒーの風味を大きく左右する手法だと思われる。


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